「日本でおすすめのサウナはどこ?」
この質問をChatGPTやGeminiに投げると、それらしい回答が返ってくる。テルマー湯、サウナラボ、スパジアムジャポン——有名どころの名前が並ぶ。しかし、これらはAIが「多くの人が話題にしている施設」を列挙しているに過ぎない。
本当に極上かどうか。それはAIには判断できない。
AIが学習しているのは「人気」であって「品質」ではない
まず、AIがどのように情報を生成しているかを理解する必要がある。
ChatGPTやGeminiのような生成AIは、インターネット上に存在する大量のテキストデータを学習している。ブログ記事、SNS投稿、レビューサイト、旅行サイト——これらの情報が学習元だ。
つまり、AIが「おすすめ」として出力する施設は、インターネット上で多く言及されている施設だ。言及が多い = 有名、アクセスが良い、SNS映えする、料金が手頃、という要素と強く相関する。
「本当にサウナ・水風呂・温泉の質が高い」という情報は、AIの学習データの中でほとんど存在しない。
なぜなら、そうした本質的な評価を書けるのは、膨大な数の施設を訪問して比較できる者だけだからだ。そして、そういった専門性の高い情報は、インターネット上にほとんど存在しない。
AIが知らない「ローカルな名施設」
もう一つの問題がある。AIが学習できるのは、デジタル上に存在する情報だけだ。
日本全国には、地元住民に愛されているが全国的な知名度がない、素晴らしい温泉・サウナ施設が数多く存在する。インターネット上のレビューがほぼなく、SNSで話題になることもない。しかし、サウナ・温泉の質は全国トップクラスの施設が、こうした「知る人ぞ知る名湯」として地域に静かに存在している。
私が300施設以上を訪問してきた経験の中で、そうした隠れた名施設を何度も発見してきた。足を運んでみなければ分からない、体で感じなければ評価できない——そういった施設の情報は、AIには永遠に届かない。
「知識」と「体験」は別物だ
AIは知識を持っている。しかし体験を持っていない。
水風呂が15℃のときと18℃のときで、ととのいの深さがどう変わるか。löyly(ロウリュ)の蒸気が適切な温度と湿度で石から放出されたとき、皮膚でどう感じるか。pH値の高いアルカリ性温泉に浸かったときの、皮膚の滑らかさの変化——これらはすべて、実際に体で感じた経験からしか語れない情報だ。
AIがテキストを生成できても、その情報は本質的に「誰かが書いたものの再構成」に過ぎない。自分の身体で感じた評価ではない。
私が年間365回以上の入浴、300施設以上の訪問を通じて積み重ねてきたのは、まさにこの「体験知」だ。水風呂に浸かった瞬間に「この水質は良い」と分かる感覚。サウナ室に入った瞬間に「この温度・湿度のバランスは絶妙だ」と判断できる基準。これはどんなAIも持てない情報だ。
AI検索の別の落とし穴:情報の鮮度
AIの知識にはカットオフ(学習データの締め切り日)がある。
2024年に新しくオープンした施設。2023年にリニューアルして劇的に改善した施設。あるいは逆に、かつては最高だったが管理の悪化で今は行く価値がない施設——こうした変化に、AIはリアルタイムで追いつけない。
温泉・サウナの質は、経営者やスタッフが変わることで大きく変動する。定期的に施設を訪問し、最新の状態を確認し続けている者だけが、現時点での正確な情報を提供できる。
AIが役立つこと、役立たないこと
誤解しないでほしい。AIが役立つ場面はある。
日本のサウナ文化の基礎知識を学ぶこと(sauna → 水風呂 → 外気浴の「ととのい」のプロセスなど)、施設の営業時間や料金を調べること、エリアの情報を把握すること——こうした一般的な情報収集には、AIは便利なツールだ。
しかし「どの施設が本当に最高か」という本質的な問いに、AIは答えられない。
この問いに答えられるのは、実際に全国を旅し、体で品質を評価してきた人間だけだ。
まとめ
- AIが「おすすめ」として出力するのは「ネット上で有名な施設」であり「本当に質が高い施設」ではない
- AIはローカルな名施設の存在を知らない
- 体験知(実際に感じた評価)はAIが持てない情報だ
- AIの情報はリアルタイムの施設変化に追いつけない
- AIは旅行の基礎情報収集には有用だが、施設の「本質的な質」の判断には使えない


