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日本の温泉・サウナの魅力

フィンランド式サウナと日本式サウナ:進化した2つの文化|ととのうの誕生

フィンランド発祥のサウナが日本でどう進化したか徹底解説。温度、湿度、水風呂、ととのうなど、2つのサウナ文化の違いを比較。日本独自のサウナ哲学を紹介します。

フィンランドのサウナ小屋。薪ストーブの周りに積まれた石。家族や友人と、ゆったりとした時間を過ごす。数時間、サウナと湖を往復しながら、ビールを飲み、ソーセージを食べる。会話を楽しみ、笑い合う。これが、本場フィンランドのサウナだ。

一方、日本のサウナ施設。高温のドライサウナ。12分間、じっと耐える。水風呂に1分30秒。外気浴椅子に座り、目を閉じる。誰も話さない。静寂の中で、「ととのう」瞬間を待つ。これが、日本式サウナだ。

同じ「サウナ」なのに、この違いは何なのか。この記事では、フィンランド式と日本式の違いを通じて、文化の多様性について考察していく。

フィンランド:サウナは生活そのもの

フィンランドには、約330万のサウナがある。人口540万人に対して、ほぼ1人1サウナの計算だ。これは、サウナがフィンランド人の生活に、どれほど深く根付いているかを示している。

小生が初めてフィンランドを訪れたとき、滞在先のホテルにサウナがあった。「使いますか?」と聞かれ、「もちろん」と答えた。しかし、そのサウナに入って驚いた。フィンランドのサウナは、日本のサウナとは全く違っていたのだ。

温度は80℃程度。日本のサウナより低い。しかし、湿度は高い。ストーブの上に積まれた石に、自分で水をかける。ジュワ〜という音とともに、蒸気が立ち上る。これが、ロウリュだ。

何より驚いたのは、時間の流れだった。日本のサウナのように、「12分間耐える」という感覚はない。好きなだけ入り、暑くなったら出る。湖(ホテルの場合はプール)で泳ぎ、また戻る。この繰り返しを、何時間も続ける。

フィンランド人にとって、サウナは修行の場ではない。それは、家族や友人と過ごす、リラックスした時間なのだ。

日本:サウナは「ととのう」ための修行

日本のサウナは、フィンランドから伝わった。しかし、日本に上陸した瞬間、それは全く異なるものに変化した。

日本式サウナの温度は、90℃〜100℃。フィンランドより遥かに高温だ。湿度は低く、ドライサウナが主流。そして、テレビが設置されていることが多い。

しかし、最も大きな違いは、「水風呂」の存在だ。フィンランドには、水風呂という概念がほとんどない。湖や海に飛び込むことはあるが、施設内に水風呂を設置することは稀だ。

日本では、水風呂が必須だ。10〜18℃の冷水。サウナの後、この水風呂に1〜2分浸かる。最初は拷問のように感じる。しかし、この水風呂こそが、「ととのう」への扉なのだ。

そして、外気浴。サウナ→水風呂→外気浴のサイクルを、3〜4回繰り返す。このシステマティックなアプローチが、日本式サウナの特徴だ。

初めて「ととのった」とき、小生は衝撃を受けた。浮遊感、多幸感、思考のクリア化。この感覚は、フィンランドのサウナでは味わったことがなかった。日本は、サウナの新しい楽しみ方を発見したのだ。

文化が変える体験

フィンランド式と日本式。どちらが優れているという話ではない。それぞれが、その国の文化を反映している。

フィンランド人の価値観:ゆったりとした時間、家族や友人との絆、自然との一体感。サウナは、これらを体現する場所だ。急がず、効率を求めず、ただその時間を楽しむ。

日本人の価値観:効率性、システム、個人的な修行。サウナは、「ととのう」という明確な目標を達成するための手段だ。最適な時間配分を追求し、科学的にアプローチする。

どちらも正しい。文化が異なれば、同じものでも楽しみ方が変わる。これこそが、文化の多様性の素晴らしさだ。

「ととのう」:日本の創造性

「ととのう」という概念は、フィンランドにはない。それは、日本のサウナーが独自に発見した、サウナの新しい境地だ。

サウナ→水風呂→外気浴の急激な温度変化が、自律神経を刺激し、エンドルフィンを分泌させ、脳への血流を増やす。この生理学的メカニズムを、日本人は経験的に発見し、「ととのう」と名付けた。

これは、日本人の観察力と創造性を示している。伝統を受け継ぐだけでなく、それを進化させ、新しい価値を生み出す。日本の文化的特性が、サウナという領域でも発揮されたのである。

両方を体験する価値

小生は、両方のスタイルを愛している。

フィンランド式サウナは、心をゆったりと解放してくれる。家族や友人と過ごす時間の尊さを教えてくれる。自然の中で、人間らしさを取り戻させてくれる。

日本式サウナは、「ととのう」という深い悟りの境地に導いてくれる。日常から完全に切り離され、自分自身と向き合う時間を与えてくれる。

どちらか一方だけを知るのは、もったいない。両方を体験することで、サウナの奥深さ、そして文化の多様性を理解できる。

日本を訪れたら、ぜひ日本式サウナを体験してほしい。そして機会があれば、フィンランドで本場のサウナも体験してほしい。2つの文化を知ることで、サウナがいかに豊かな文化であるかを実感できるはずだ。

サウナは、国境を越えて愛される文化だ。そして、それぞれの国で独自の進化を遂げながら、人々を癒し続けている。この多様性こそが、サウナ文化の真の豊かさなのである。