サウナ室に入る前、脱衣所で小さなマットを手に取る。30cm×40cm程度の、タオル地のマット。これを持って、サウナ室に入る。ベンチに敷いて、その上に座る。
「なぜ、わざわざマットを?」。外国人は、そう疑問に思うかもしれない。しかし、このサウナマットこそが、日本人の衛生意識とマナー意識を象徴するアイテムなのだ。
この記事では、サウナマットが示す、日本のサウナ文化の独自性について解説していく。
「次の人」への配慮
小生がサウナマットを使い始めたきっかけは、ある常連客の一言だった。
「マット、使ってる?」。サウナ室で、隣に座ったおじさんが聞いてきた。「いえ、まだです」と答えると、彼は言った。「使った方がいいよ。次に座る人のためにもね」。
その言葉が、心に残った。「次に座る人のために」。サウナマットは、自分のためだけではない。次に使う人への配慮なのだ。
自分の汗が、ベンチに直接付くことを防ぐ。そうすることで、次の人が気持ちよく座れる。この「次の人」への配慮。これが、日本人のマナー意識の核心なのだと悟った。
清潔さへのこだわり
日本人は、清潔さに対して、世界でも類を見ないこだわりを持つ。
公衆トイレは清潔だ。街は綺麗だ。食品の衛生管理は厳格だ。そして、公共の場所を汚さないことが、社会的なマナーとされている。
サウナマットは、この清潔文化の延長線上にある。公共のベンチに直接座ることへの抵抗感。他人の汗が付いたベンチに座ることへの不快感。これらを解消するのが、サウナマットなのだ。
海外のサウナでは、サウナマットという概念はほとんどない。みんな、直接ベンチに座る。それで何も問題ない。しかし、日本では違う。サウナマットが、マナーとして定着しつつある。
この違いは、文化の違いを示している。どちらが正しいというわけではない。しかし、日本では、サウナマットが「配慮」と「清潔さ」を象徴するアイテムになったのだ。
マットを忘れた日の気まずさ
ある日、サウナマットを忘れてしまった。施設に到着して、ロッカーを開けたとき、気づいた。「マットがない」。
購入することもできたが、その日は手持ちのタオルで代用することにした。しかし、サウナ室に入ったとき、なんとも言えない気まずさを感じた。
周りを見渡すと、ほとんどの人がマットを使っている。自分だけが、直接ベンチに座っている。誰も何も言わない。しかし、「ああ、マナー違反をしているのではないか」という罪悪感を感じた。
この経験で、サウナマットが単なる便利グッズではないことを悟った。それは、「サウナーとしての自覚」を示すアイテムなのだ。
小さなマットが育む文化
サウナマットは小さい。30cm×40cm。1,000〜2,000円。些細なアイテムだ。
しかし、この小さなマットが、日本のサウナ文化を育んでいる。マットを使うことで、「他者への配慮」を実践する。公共の場所を大切にする意識を持つ。清潔さを維持する責任を感じる。
サウナマットは、日本のマナー文化を象徴している。目立たないが、重要。義務ではないが、多くの人が実践する。強制されないが、自発的に守られる。
これが、日本の文化の美しさだと、小生は思う。
日本でサウナを体験するなら、ぜひサウナマットを持参してほしい。それは、単なる衛生用品ではない。日本のサウナ文化に参加する、小さな儀式なのである。
