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健康・効能

外湯めぐり:日本の温泉街が育んだ湯めぐり文化|湯めぐり手形で温泉巡り

複数の温泉を巡る日本独特の外湯文化を徹底解説。様々な泉質を楽しむ醍醐味、湯めぐり手形の使い方、温泉街全体を楽しむ日本人の知恵を詳しく紹介します。

一つの温泉地で、複数の温泉に入る。これが「外湯めぐり」だ。

旅館の内湯だけでなく、温泉街に点在する公衆浴場「外湯」を巡る習慣。日本の温泉地が育んできた、独特の文化である。

外湯めぐりは、単なる入浴ではない。温泉街を歩き、様々な泉質を楽しみ、地域の歴史を感じる。総合的な温泉体験なのだ。

外湯とは何か

外湯とは、旅館の「内湯」に対する言葉だ。

旅館の中にある温泉が内湯。旅館の外、つまり温泉街にある公衆浴場が外湯。この区別が、日本の温泉地の特徴を形作っている。

外湯の起源は古い。江戸時代、温泉地には共同浴場があった。地元の人々が日常的に利用し、湯治客も訪れる。この共同浴場が、外湯の原型である。

明治時代以降、温泉旅館が発展すると、内湯を持つ旅館が増えた。しかし、外湯の文化は消えなかった。むしろ、内湯と外湯の両方を楽しむという、新しい温泉の楽しみ方が生まれたのである。

外湯めぐりの聖地:城崎温泉

外湯めぐりと言えば、城崎温泉だ。

兵庫県豊岡市にある城崎温泉は、7つの外湯を持つ。それぞれが異なる雰囲気と効能を持ち、「七湯めぐり」として親しまれている。

さとの湯、地蔵湯、柳湯、一の湯、御所の湯、まんだら湯、鴻の湯。この7つの外湯が、城崎温泉の魅力を作り出している。

城崎温泉では、宿泊客に「湯めぐり手形」が渡される。この手形があれば、7つの外湯すべてに無料で入浴できる。浴衣を着て、下駄を履いて、外湯を巡る。これが、城崎温泉の定番の過ごし方だ。

外湯めぐりを前提とした温泉街の設計。これが、城崎温泉を特別な存在にしている。温泉街全体が一つの巨大な温泉施設のように機能しているのである。

湯めぐり手形というシステム

外湯めぐりを促進するのが、「湯めぐり手形」だ。

一枚の手形で、複数の外湯に入浴できる。料金は1,000円〜1,500円程度。個別に入浴料を払うより、はるかに安い。この経済的メリットが、外湯めぐりを促進している。

湯めぐり手形は、温泉街の観光戦略でもある。手形を持って外湯を巡れば、自然と温泉街を歩き回ることになる。その過程で、店に立ち寄り、食べ物を買い、土産を買う。温泉街全体の活性化に繋がる仕組みなのだ。

多くの温泉地が、この湯めぐり手形システムを導入している。野沢温泉、渋温泉、黒川温泉。それぞれの温泉地で、独自の湯めぐり手形が発行されている。

泉質の違いを楽しむ

外湯めぐりの醍醐味は、様々な泉質を楽しめることだ。

同じ温泉地でも、場所によって泉質が異なることがある。源泉が複数あり、それぞれ成分が違う。外湯めぐりをすることで、この違いを体感できるのである。

城崎温泉の7つの外湯も、それぞれ微妙に泉質が異なる。ナトリウム・カルシウム-塩化物泉が基本だが、温度や成分濃度が違う。入浴すると、その違いが分かる。

この泉質の違いを意識しながら入浴する。これが、外湯めぐりの楽しみ方だ。単に「温泉に入る」のではなく、「違いを味わう」。この意識が、温泉体験を深化させる。

建物・雰囲気の違いを楽しむ

外湯は、それぞれ建物が異なる。

歴史ある木造建築、現代的なデザイン、レトロな銭湯風。外湯ごとに、建築様式が違う。この多様性が、外湯めぐりを飽きさせない。

内装も様々だ。岩風呂、檜風呂、タイル張り。浴槽の形、天井の高さ、照明の明るさ。すべてが異なる。一つとして同じ外湯はない。

この建物・雰囲気の違いが、外湯めぐりを文化体験にしている。単なる入浴ではなく、建築鑑賞、空間体験。多層的な楽しみ方ができるのである。

温泉街を歩く運動効果

外湯めぐりは、必然的に歩くことになる。

外湯は、温泉街に点在している。一つの外湯から次の外湯まで、徒歩5分〜10分。外湯を巡るために、かなりの距離を歩くのである。

この「歩く」という行為が、健康効果を生む。温泉に入った後、少し歩いて身体を冷ます。また次の温泉に入って温まる。この温冷交代浴と運動の組み合わせが、血行を促進し、健康効果を高めるのだ。

湯治の伝統的な方法でも、入浴と散歩を組み合わせることが推奨されている。外湯めぐりは、この伝統を自然に実践できる仕組みなのである。

外湯めぐりの理想的な順序

外湯めぐりには、理想的な順序がある。

まず、温度の低い温泉から入る。身体を慣らすためだ。いきなり熱い温泉に入ると、身体に負担がかかる。ぬるめの温泉で身体を慣らし、徐々に熱い温泉に移行する。

次に、泉質の濃い温泉は後半に回す。強い泉質の温泉に何度も入ると、身体が疲れる。最初は優しい泉質の温泉に入り、最後に強い泉質で仕上げる。

地元の常連客は、この順序を知っている。効果的な外湯めぐりの知恵を持っている。観光案内所で聞けば、おすすめの順序を教えてくれることもある。

一日何湯まで入れるか

外湯めぐりで気になるのは、一日に何回入浴できるかだ。

健康な成人であれば、一日3〜4湯が適切だろう。それ以上入ると、身体が疲れる。温泉は、長時間・多回数入れば良いというものではない。

湯めぐり手形があるからと言って、すべての外湯を一日で制覇する必要はない。無理をせず、自分のペースで楽しむ。これが、外湯めぐりの基本だ。

多くの温泉地では、湯めぐり手形の有効期限を長めに設定している。一泊二日、または二泊三日。この期間で、ゆっくりと外湯を巡ればいい。急ぐ必要はないのである。

外湯めぐりの持ち物

外湯めぐりに必要な持ち物は、意外と少ない。

タオル一枚あればいい。旅館から借りることもできる。浴衣と下駄で外湯に行く。荷物は最小限。この身軽さが、外湯めぐりの魅力だ。

ただし、湯めぐり手形は必須だ。忘れると入浴できない。浴衣のポケットに入れて持ち歩く。小銭も持っていると便利だ。ロッカー代や、帰りに買い食いをするときに使える。

地元の人との交流

外湯は、地元の人も利用する。

観光客専用ではなく、地元の住民の日常的な入浴施設でもある。朝早く、夕方遅く。観光客の少ない時間帯には、地元の常連客が多い。

脱衣所で、浴室で、自然と会話が始まることがある。「どこから来たの?」「初めて?」この素朴な会話が、旅の思い出になる。

地元の人から、おすすめの外湯を教えてもらうこともある。「次はあそこに行くといいよ」「あの時間帯が空いてるよ」。こうした地元情報が、外湯めぐりを充実させる。

外湯の営業時間に注意

外湯には、営業時間がある。

多くの外湯は、朝7時〜夜23時くらいの営業だ。しかし、定休日がある外湯もある。特定の曜日に休む外湯も珍しくない。

また、清掃時間も確認が必要だ。午後の数時間、清掃のため入浴できないこともある。事前に営業時間を確認し、計画的に外湯めぐりをすることが重要だ。

城崎温泉では、各外湯の営業時間が異なる。早朝から開いている外湯、夜遅くまで開いている外湯。この違いを活かして、一日中外湯めぐりを楽しめるのである。

混雑を避けるコツ

人気の外湯は、混雑する。

特に、夕方から夜にかけて。観光客が夕食前に入浴する時間帯だ。この時間は、どの外湯も混んでいる。ゆっくり入浴したいなら、この時間帯は避けるべきだ。

おすすめは、早朝と深夜だ。朝6時〜7時、夜22時以降。この時間帯は、観光客が少ない。地元の常連客だけの、静かな外湯を楽しめる。

平日に訪れることも、混雑回避の有効な方法だ。週末は観光客で溢れるが、平日は比較的空いている。可能なら、平日に温泉旅行を計画するのが賢明だ。

外湯めぐりスタンプラリー

多くの温泉地で、外湯めぐりスタンプラリーが実施されている。

各外湯にスタンプが設置されており、専用の台紙にスタンプを押す。すべての外湯のスタンプを集めると、記念品がもらえる。この遊び心が、外湯めぐりを楽しくしている。

スタンプラリーは、特に家族連れに人気だ。子供にとって、スタンプを集めることが目的になり、飽きずに外湯めぐりを楽しめる。温泉に興味のない子供でも、スタンプ集めなら喜ぶのである。

コンプリートした台紙は、良い記念品になる。自宅に持ち帰り、旅の思い出として飾る。次回訪れたときの楽しみにもなる。

外湯めぐりと食事の組み合わせ

外湯めぐりの合間に、食事を楽しむ。

温泉街には、食べ歩きできる店が多い。温泉饅頭、団子、ソフトクリーム。外湯の後、これらを食べながら次の外湯に向かう。この組み合わせが、極上の温泉体験を生む。

湯上がりのビールも格別だ。外湯の近くの居酒屋に入り、地酒を飲む。これも、外湯めぐりの楽しみの一つである。

食事と入浴のバランスは重要だ。満腹で温泉に入ると、気分が悪くなることもある。軽食を挟みながら、適度に外湯を巡る。このペース配分が、外湯めぐりの成功を左右する。

夜の外湯めぐりの魅力

夜の外湯めぐりは、昼とは違う魅力がある。

温泉街がライトアップされ、幻想的な雰囲気になる。浴衣姿で、ライトに照らされた石畳を歩く。この風情が、夜の外湯めぐりの醍醐味だ。

夜の外湯は、静かだ。日中の賑わいが嘘のように、落ち着いた雰囲気になる。ゆっくりと温泉に浸かり、一日の疲れを癒す。この時間が、最も贅沢に感じられる。

朝の外湯めぐりの爽快感

朝の外湯めぐりも、素晴らしい体験だ。

早朝、まだ観光客が少ない時間帯に外湯を訪れる。空気は澄んでいて、街は静かだ。この清々しさの中で温泉に入る爽快感は、何物にも代えがたい。

朝風呂は、一日の活力を生む。温泉で身体を温め、血行を良くする。この状態で一日を始めれば、パフォーマンスが上がる。朝の外湯めぐりは、健康習慣としても優れているのだ。

外湯めぐりは温泉地の総合体験

外湯めぐりは、単なる入浴ではない。

温泉街を歩き、建築を見て、食事をして、地元の人と交流する。温泉地のすべてを体験する、総合的な温泉旅行なのだ。

旅館に籠もって内湯だけに入る。これも一つの温泉の楽しみ方だ。しかし、外湯めぐりをすることで、温泉地の魅力をより深く理解できる。温泉街という「面」で温泉を楽しめるのである。

外湯めぐりは、日本の温泉文化の粋だ。江戸時代から続く共同浴場の伝統、温泉街という独特の空間、浴衣散策という習慣。これらすべてが融合した、日本独自の温泉体験。

外湯めぐりをせずして、日本の温泉を語るなかれ。湯めぐり手形を手に、浴衣を着て、温泉街を歩け。そこに、日本の温泉文化の本質がある。