衝動的に始まった旅が、衝動的に続いている。
今朝、明石海峡の麓にある「SPA専 太平のゆ」で海を見ながら3セットを終えた後、行き先を和歌山に決めた。海を眺めながらの風呂という今回のテーマに、白浜はぴったりだ。垂水から一気に車を飛ばして和歌山に向かう。約2時間半のドライブだが、気分が高揚しているので長くは感じない。和歌山に来るのは昨年の夏以来で、紀伊半島の風景が久しぶりに目に入ると、ああ戻ってきたなという感慨が湧いてくる。
宿泊先のホテルにチェックインを済ませ、少し休憩してから目的地に向かった。今夜の目的地は「南紀白浜温泉 ホテル川久」である。
到着した刹那、言葉を失った。
宮殿だ。いや、城か。あるいは遺跡か。とにかく、目の前に現れた建築物のスケールが尋常ではない。バブル絶頂期の1991年に総工費400億円をかけて建設されたというのは事前に知っていたが、実物の迫力は想像の遥か上を行っている。屋根には中国・紫禁城と同じ瑠璃瓦が47万枚使われ、外壁にはイギリス製の煉瓦が73種類140万個も組み合わされている。そんな数字を頭で理解するよりも先に、身体が反応していた。あまりの迫力にしばらく見惚れてしまい、建物の周辺を一周散歩することにした。
歩いてみると、このホテルは海に囲まれたロケーションに建っていることがわかる。散歩していると白浜の海景色が一望できるではないか。宿泊すれば客室からこの絶景を独り占めできるのだろう。いつかここに泊まってみたいと、本気で思った。
ホテルの中に入ると、今度は内装に圧倒される。エントランスの天井ドームには22.5金の金箔が19万枚貼られており、柱の一本一本が疑似大理石で1本1億円だという。床はイタリア職人が手作業で埋め込んだローマンモザイクタイルだ。もはやホテルというよりは美術館であり、実際に「川久ミュージアム」としてダリやシャガールの作品も展示されている。映画に出てきそうな宮殿そのものであり、人生で一度はこんなホテルに泊まってみたいと思わされる空間だった。
受付で「ロイヤルスパ」を利用したい旨を告げ、料金を支払った。ホテル川久には2つの大浴場がある。2階にある「ロイヤルスパ」と、1階にある「悠久の森」だ。この日の午後は、男性が2階のロイヤルスパを利用できた。まさにロイヤルな体験の始まりである。
足を踏み入れた刹那、脱衣スペースからしてラグジュアリー感が漂っている。床暖房が心地よく、一般的なスーパー銭湯のそれとは明らかに次元が異なる。大浴場に向かうと、まず身体を洗うスペースがあり、その通路を抜けると内湯が顔を覗かせた。ダークな照明で統一された空間に、暖炉を囲むようなイメージの休憩スペースが設けられている。各種ドリンクも用意されており、風呂に入るだけでなく、ドリンクを楽しんだり団欒を楽しめるような、そんな時間を過ごせる設計になっているのだ。
そして圧巻は露天風呂であった。名湯・白浜温泉が注がれる浴槽の向こうに、白浜の絶景がパノラマで広がっている。時間帯は夕方で、海景色がとても美しい。この景色を長めながら、今日ここに来ることを決めた自分を褒めたくなった。
そのまま露天の白浜温泉に身を沈めた。
温泉の気持ちよさが異常である。体の温まり方が凄まじく、全身に温泉成分が染み込んでいくのがわかる。さすがは名湯・白浜温泉だ。有馬温泉に行った時のことを思い出した。あの時も、温泉そのものの力に打ちのめされた記憶がある。あまりの景色の美しさに、その場所を離れたくないような気持ちになる。おそらく30分くらい、温泉に浸かっては少し出て景色を眺め、またゆっくり浸かることを繰り返していた。そろそろサウナに入ろう。
1セット目。10人ほどが入れるサウナ室に足を踏み入れると、アロマの香りが漂っている。セルフロウリュができる仕様で、照明もモダンに統一されており世界観が崩れない。壁面には岩塩のようなものが埋め込まれていて、体の温まりも非常にいいような気がする。誰もいなかったので、身体が温まってきたところで遠慮なくセルフロウリュを行った。蒸気が全身を包み込み、汗が一気に噴き出してくる。
水風呂は4人ほどが入れるスペースで、16℃くらいの理想的な温度だ。しっかりと全身を冷却した後、露天の外気浴スペースに向かう。
白浜の海が一望できる空間に、これまたいい配置でチェアが並んでいる。横になれる設計で、背もたれの角度も調節できる。さらに驚いたのは、バスタオルがチェアの横に配備されていることだ。身体を拭いてから外気浴を楽しむことができる。このホスピタリティは本当にすごい。チェアに身を横たえながら白浜の海景色を眺める。さっきより少し日が沈んだ気がした。
いつまでそうしていただろうか。時間感覚を完全に喪失している。おそらく、大浴場に足を踏み入れてから2セット目を開始するまでに、すでに1時間が経過していたはずだ。
2セット目も同じ流れでサウナから水風呂に入り、露天の美しい景色を眺めながら外気浴をする。やはりまた、日が沈んできている。ぼーっと海を眺めて、頭を空っぽにして、温泉に浸かっていると、自然と前向きになれる気がするのだ。美しい自然を眺めているだけで、ついつい言葉を失い、何も考えなくていい時間が流れていく。
3セット目を終えた時には、かなり日が沈み、夜になろうとしていた。



「ゴージャス」「ラグジュアリー」「ロイヤル」——これらの言葉は、このホテルを評する時にこそ使うべきだと認識させられた。それだけの体験がここではできる。冷静に見れば、温泉もサウナも水風呂も休憩スペースも、設備としては特別なものではないのかもしれない。しかし、そこに海景色、海に浮かぶ島々、海岸線に見える街並みというロケーションが重なった時、体験は別次元のものに変わる。ロケーションとは、特別な価値なのだ。
ずっとここに居たいと思える空間だったが、お別れの時は必ずくる。名湯白浜温泉に身を沈め、温泉成分を体に十分に付着させた。思い出を身体に刻み込むような気持ちで、大浴場を後にした。
周辺で食事を済ませ、宿泊先のホテルに帰還した。明日に備えて早めに休むことにする。明日は有田町に移動し、以前から気になっていた施設を訪問する予定だ。施設の名は「有田川温泉 光の湯」。衝動的に始まったこの旅は、まだ終わらない。





