「湯らっくす」でタクシーを呼び、「湯屋水禅 Luxury Sauna & Spa」まで向かった。車内では、運転手との会話が弾んでいた。 運転手: 「お客さん、湯らっくすは気持ちよかったですか？」 小生: 「はい。もう最高でしたね。2025年の締めに相応しいサウナでした。」 運転手: 「そうだと思います。実は、私も常連なんですよ。24時間営業ですから、タクシー運転手の仕事が終わるといつも行っていますよ。湯らっくす目当てのお客様をお送りする時なんかは、私も一緒に行きたいなと思っております笑」 小生: 「私も熊本に住んでいたら、間違いなく毎日行くと思いますわ。」 運転手:「ははは。お客さん、相当なサウナ好きですね。ちなみに、今向かっているホテルも相当いいですよ。湯らっくすとはまた違ったコンセプトで、高級感をテーマにしていますからね。価格も高いので人も少ないです。まあ、とにかく入ってみたら良さがわかると思いますよ。宿泊するなら、夜も朝も入れます。ぜひ、堪能してきてください。良い旅を。」 小生: 「ありがとうございます！」 そう言って目的地でタクシーを降りた。今いるのは、熊本の老舗旅館「松屋別館」の入り口前である。このホテルに「湯屋水禅 Luxury Sauna & Spa」がある。宿泊のチェックインを済ませて、和モダンな客室に荷物をおき、周辺を散策することにした。ホテルからすぐの場所に「水前寺公園」があったので散歩がてらに美しい庭園を楽しんだ。そこから熊本城下の繁華街を散歩してホテルに戻り、いよいよサウナに向かう。 「湯屋水禅 Luxury Sauna & Spa」はホテルの2階にあった。エレベータを降りると、和風の綺麗なオブジェが出迎えてくれ、その先には高級感あふれる空間が広がっていた。熊本の紅茶や阿蘇の天然水、コーヒーを無料で楽しめるラウンジがあり、その隣にはコワーキングスペースも併設されている。可能なら、１週間ほどここに宿泊しながら仕事をしてみたいものだ。 ラウンジを奥に進むと男性浴場への入り口が見える。暖簾を潜ると、清潔感に満ち溢れたロッカーが立ち並ぶ。即座に服を整理し、浴室までの通路を進む。その通路も、まるで料亭の廊下を歩いているような雰囲気がある。大浴場に入ると、右側が外気浴スペース、中央がラジウム温泉と水風呂、左奥にサウナという作りになっていた。 サウナを見た刹那、言葉を失った。全ての木材に檜を使用したサウナは美しいという他ない。細い木材を敷き詰めて壁やベンチが作られており、作り手のこだわりときめ細かさが現れている。さらに、サウナ室の中央にはロッキーストーブが設置され、大量のサウナストーンが積まれていた。そこに、施設オリジナルのアロマ水をかけてセルフロウリュができる仕様になっている。さらにさらに、サウナ室の入り口側は、全面ガラス張りになっており、外からも内からも丸見えである。この素敵なサウナなら、この開放感もありだなと思う。デザインされたサウナの中で瞑想している自分を外の人に見せつけたくなる。そして、見られているという緊張感が背筋を伸ばし、室の高い体験をしようと自らを奮い立たせることもできる。小生を見てくれと。珍しく、開放的な気分になっていた。 しかし、見せつけようと思ったものの、その時間帯、大浴場には小生一人しかいなかった。まさかの貸切状態である。このラグジュアリーなサウナを一人で満喫していいのか？こんな贅沢が許されていいのか？もちろんいいのだ。思う存分堪能してくれたまえ。さあおいで。サウナが小生を呼んでいる気がする。 吸い込まれるようにサウナ室に入ると、そこには檜の香り、アロマの香りがミックスして漂い、キリッとした熱に包まれていた。室温は約100℃。高めの温度設定だ。檜張りのベンチに腰を下ろす。熱を感じることと、サウナの美しい造形に目を奪われる。木の一本一本が規則正しく配置されている。しばらくして、サウナストーンにアロマ水をかけてロウリュウを行う。柑橘系のいい香りが蒸気と共に室内に広がる。その度に鼻からいっぱいに空気を吸い込み、一人で酔いしれる。なんと贅沢な時間だろうか。 サウナの後は、阿蘇の天然水を贅沢に使った水風呂に入る。水温は18℃くらいだろうか。この時、これまで味わったことない感覚を味わった。誰もいない貸切の空間にいるのは小生ただ一人。水風呂でゆっくりと浮かびながら、心拍数が徐々に収まっていくのを感じる。小生が水の中に入っているのではなく、水の一部として小生が存在しているような、そんな感覚を味わった。地下水の柔らかい水に包まれ、還元してくれているようにも感じる。 水風呂の後は、専用の休憩スペースに移動する。ここでもディープリラックスに導くための仕掛けがいくつもされていた。暗くて静寂な空間にチェアが4つ並んでおり、それぞれのチェアの間には仕切りがあり、完全にプライベートな空間になっているのだ。横に人がいるとか、そういうことを一切気にしなくていい。自分だけの空間で、自分の全てに意識を向けて、リラックスすることができるのだ。先ほどの水風呂と同じように、ここにも自分のために空間があるのではなく、自分が空間の一部なのだと。 2セット目のサウナでは、バスタオルを座面に敷き、寝転がってサウナ浴をすることにした。誰もいないし広いサウナなので、仮に誰か来たとしても寝たまま楽しめる。小生は、寝ながらサウナに入るのが大好きだ。座ってサウナに入るのとは全く異なる感覚を味わうことができるからだ。まずは、セルフロウリュをして大量の蒸気を発生させ、一人アウフグースの如くタオルで仰ぎ、アロマの香りを室内中に充満させた。その後、ベンチに横になり、ゆっくり目を閉じる。水風呂で冷やした身体がサウナ室でほぐれていく感覚。ホッとする感覚の後は、徐々に汗が吹き出してくる。全身均等に熱がかかり、頭から足先まで同じペースで温まっていく。起き上がり、仕上げにもう一度セルフロウリュでさらに体感温度を上げる。限界を迎えたところで水風呂に直行だ。 またもや水と身体が一体化する感覚に喜びを感じながら、サウナで熱した身体を冷やしていく。その後は、極上の休憩スペースへ。この2セットが完了した時点で、ようやく別の客が入ってきた。美しい空間を独り占めできたことは奇跡的である。感謝の気持ちを感じながら、時間感覚を失いながら追加で1セット。この日のサウナ活動は終了だ。 先ほども書いたが、水や空間と一体化する感覚を得られたのは初めてかもしれない。これは、プロのサウナーとしてひとつ階段を登ったような気がする。これまでは、気持ちいい、リラックス感覚を得られていたが、自分という存在は常に独立したものであり、空間の一部という意識はなかった。2025年の最後のサウナ旅でこの感覚を得られたこともまたとない幸運である。

さて、サウナの後は美味しい食事の時間である。今年最後の旅ということもあり、ホテル内のレストランで馬肉料理を堪能することにした。一人でカウンターに腰掛け、特選馬刺しの盛り合わせと、馬肉のしゃぶしゃぶを注文した。まずは、馬刺しから注文する。個人的に、全ての肉の中で馬肉が最も好みである。脂身のしつこさもなく、アスリートの肉を食べているような食感の良さがたまらない。また、カウンターで優雅に食事をしている自分に酔いしれ、今年一年もよくぞ頑張りましたと自分を褒める。 食事を終えた後は客室に戻り、熊本の銘菓である「黒糖ドーナツ棒」と緑茶をデザートとしていただき、テレビをみていると眠気が襲ってきた。そろそろ寝るとする。明日は、朝6時から朝サウナに入る予定だ。ぐっすり眠り、明日の活動に備えよう。また明日も素敵な空間でサウナを楽しめることに喜びを感じながら、ニヤケ顔で眠りについた。