蟹御殿 有明海の湯
Vol.6
佐賀県
2026/2/27-3/2 福岡・佐賀サウナ旅

蟹御殿 有明海の湯の体験談

有明海が眼前に広がる、人生最高の外気浴

📅2026/3/117:00
人生最高、という言葉を乱発するのは好まない。 しかし、どう考えても人生最高という言葉しか出てこない体験が、この世には確かに存在するのだ。そして小生はこの日の午後、たった数時間の間に「人生最高のサウナ」「人生最高の水風呂」「人生最高の外気浴」を立て続けに経験することになった。施設を後にした時、最高すぎて車の中で思わず雄叫びを上げた。 佐賀県藤津郡太良町。ここは「月の引力が見える町」として知られている。干満の差が大きい有明海に面したこの町では、月が満ちるにつれて潮が満ち、月が欠けると海が遠ざかる。月の引力を目で見ることができる、というわけだ。そんなロマンある土地の名を冠したサウナがある。 武雄温泉からレンタカーを走らせること約1時間。約束の時間に蟹御殿(かにごてん)に到着した。 高級感のあるホテルのロビーで受付を済ませ、案内に従って別棟の大浴場に向かう。予約制なので、各時間帯に入れるのは5名だけだ。宿泊客の体験を守るための、この施設の矜持である。廊下を抜け、扉の前に立つ。 扉を開けた刹那、言葉を失った。 圧倒的な海景色が、目の前に広がっていた。 フルオーシャンビューとはこういうことか。有明海が、まるで壁画のように目の前に現れるのだ。風呂場の扉を開けてこんな景色が飛び込んでくるとは、誰が想像しただろうか。思わず立ち止まり、呆然とする。同じ時間帯の利用客も、口を揃えて「なんて素晴らしいんだ」と感動している。その声が、小生の感動に輪をかけた。 施設の全体像を確認する。大浴場の奥に進むとGRAVITY SAUNAがある。サウナ室の正面は全面ガラス張りで、有明海を眺めながらサウナに入ることができる。露天に出てすぐの場所に水風呂。地面とフラットな位置から階段を降りていくシステムで、深さは150cm。有明海にダイブするようなイメージで入れる設計だ。水風呂横の外気浴スペースにはリクライニングチェアが並び、当然その正面にも有明海が広がっている。 身を清め、いよいよ1セット目のGRAVITY SAUNAへ。 扉を開けると、木の温もりが全身を包み込んだ。樹齢350〜400年のスプルース無垢材を職人が手で削り出した空間は、ただそこにいるだけで深い時間の流れを感じさせる。90℃前後の熱が、この木材の中から静かに発せられている。木の造形美に目を奪われながら、有明海を正面に見据える。眼下には、引力によって呼吸する海が広がっている。この眺めを見ながら蒸されることが許されていいのだろうか。 セルフロウリュのひしゃくを手に取り、サウナストーンに水を浴びせた。蒸気が一気に充満し、室温が跳ね上がる。鼻から思い切り吸い込む。木の香りと蒸気が混ざり合い、五感を刺激する。10分もすれば、汗が容赦なく吹き出してくる。 そこから水風呂に向かう。地面とほぼフラットな位置に入り口があり、そこから階段を降りていく。16℃の地下天然水が、静かに循環している。多良岳山系の柔らかな水が、掛け流しで絶えず入れ替わっているのだ。一歩ずつ降りていくにつれて、水位が首まで上がってくる。150cmの深さがある。肩まで、いや、顎まで浸かることができる。 とてもまろやかだ。 水道水とは全く異なる、肌に刺さらない包まれる感覚。地下水特有の柔らかさに加えて、どこかミネラルを感じるような、飲んでしまいたいような美味しさすらある。16℃という温度であるにもかかわらず、いつまでも浸かっていられる感覚だ。有明海を眺めながら、その天然水に首まで浸かっている。海に入っているのか、水風呂に入っているのか、もはや境界が消えていくような感覚だ。 水風呂を出て、リクライニングチェアに身を預けた。潮の香りを含んだ風が、水風呂で冷やした身体を優しくなでる。圧倒的な幸福感が、数値化できない形で押し寄せてくる。 ちなみに、露天風呂は周囲から丸見えである。 知らない。気にする余裕もない。そんなことよりも、この景色に集中させてくれ。 思わず声が漏れた。「くっそ気持ちええ......」。もう笑いしか出てこない。大の大人が、リクライニングチェアに腰かけながら、一人でにやにやして笑っている。傍目には怪しい光景だろうが、そんなことはどうでもいいのだ。他の客も同じような反応をしているのだから。 2セット目のサウナに入ると、先客のお兄さんがいた。見た目からして、相当なサウナ好きであることは一目でわかった。肌がサウナ焼けをしているからだ。小生がセルフロウリュをし始めると、そのお兄さんが静かに話しかけてきた。 お兄さん:「ありがとうございます。蒸気が足りないなと思っていたので助かります。」 ああ、分かる。その感覚。小生も同じことを思っている人間だ。 小生:「いえいえ、それにしても最高に気持ちいいですね。」 お兄さん:「本当に。いい施設ですよ、ここは。」 3セット目のサウナ室に入ると、お兄さんがニヤリとしながら言った。 お兄さん:「ロウリュ、しておきましたよ。」 小生は思わず笑った。なんという気の利いた男だ。 小生:「ありがとうございます!ですが、もう少し蒸気が欲しいと思いませんか?」 お兄さん:「そうくると思って、少し遠慮しておきました。」 こういう会話ができる人と、こういう場所で出会えることが、サウナ旅の本当の醍醐味だ。名前も知らない。どこから来たかも知らない。しかしサウナという場所では、多くの言葉を交わさなくても通じ合えるものがある。一期一会とはこういう出会いのことを言うのだ。 合計5セット。 セットを重ねるごとに有明海の表情が変わった。差し込む光の角度が変わり、潮の満ち引きが変わり、空の色が変わっていく。同じ海を眺めているのに、全く同じ景色は一度もなかった。 帰りたくない、と本気で思ったのはいつぶりだろうか。最後の5セット目は、一秒でも長くこの場所に留まりたくて、外気浴の椅子から立ち上がるのが遅くなった。しかし、別れの時は必ず訪れる。この極上のサウナとお別れし、施設を後にした。
食事処「さんぽう」にて絶品の刺身、牡蠣、サザエ
食事処「さんぽう」にて絶品の刺身、牡蠣、サザエ
蟹釜飯と蟹の味噌汁
蟹釜飯と蟹の味噌汁
有明海を一応できる眺め。目の前に見える建物がサウナです。
有明海を一応できる眺め。目の前に見える建物がサウナです。
高級感のあるホテルのラウンジ
高級感のあるホテルのラウンジ
車で帰っている途中に「食事処 さんぽう」という料理店を見つけた。刺身や蟹料理で有名らしい。この土地の海の幸を存分に堪能しよう。席に着いてメニューを眺める。刺身、牡蠣、サザエ、蟹釜飯、蟹の味噌汁。有明海の幸が、これでもかと並んでいる。 刺身が運ばれてきて、一切れ口に入れた。頬が落ちた。牡蠣を口に入れると、磯の香りと濃厚な甘さが広がった。サザエを口に入れると、歯応えと旨みが追いかけてくる。蟹釜飯の蓋を取った瞬間、蟹と出汁の香りが湯気と共に立ち上った。思わず、店の中で一人で何度も頷いてしまった。隣のテーブルの人が怪訝そうな顔をしていたが、気にしなかった。それくらい美味しかったということだ。 あたりはすっかり暗くなっていた。有明海の夜は静かだ。潮の音だけが聞こえる。 この佐賀旅も、いよいよ明日で最終日だ。しかし小生には、最後に向かうべき場所がある。明日の目的地の名は「OND HOTEL」。武雄市の森の奥に佇む、あのOND SAUNAと同じ運営会社が手がけるホテルである。佐賀の旅は、まだまだ続く。
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