
Vol.7
佐賀県
2026/2/27-3/2 福岡・佐賀サウナ旅
「OND HOTEL」の体験談
整うより、鎮まる武雄の朝
📅2026/3/207:00
サウナ好きの人間は、時として自分自身に呆れる瞬間がある。
福岡・佐賀サウナ旅の最終日。朝7時に目が覚めると同時に身支度を整え、武雄温泉駅前でタクシーに乗り込んだ。行き先は「OND HOTEL」。早朝からタクシーを使って朝サウナに乗り込もうとする小生の姿を、タクシー運転手はどんな目で見ていたのだろうか。いや、考えまい。サウナ好きの人間にとって、朝7時は何も遅い時間ではないのだ。そう自分に言い聞かせながら、シートに身を沈めた。
武雄温泉駅前から数分、池のほとりを抜け、緩やかな坂を上っていく。高台に差し掛かると、OND HOTELの建物が現れた。都会的でありながら、武雄の山並みに自然と溶け込むような佇まいだ。格式の高いロビーに入ると、ほのかにアロマが漂っている。受付を済ませ、地下の大浴場へと向かった。
ロッカールームに入ると、木の質感を活かした内装が広がっている。高い天井、広いスペース、清潔なロッカー。一流ホテルのスパに来たのだというような気分だ。着替えを終えて浴場に入った刹那、少し息を呑んだ。小生以外に誰もいない。完全な貸切状態である。
内湯には武雄温泉の源泉が満ちており、正面に武雄の森が広がっている。また、入り口から内湯までの通路を挟んで左右に扉がある。その扉が、サウナへの入り口だ。一つはミストサウナ、もう一つはトンバイサウナに繋がっている。露天に出ると、10脚以上のリクライニングチェアが並び、深い水風呂がひっそりと構えていた。
まずは身を清め、内湯の武雄温泉にゆっくりと浸かった。肌にふれた瞬間にとろみのある感触が伝わってくる。朝の温泉は、夜のそれとまた違う気持ちよさがある。鳥のさえずりと、温泉が湯口から注がれる音だけが聞こえる。それ以外は静寂だ。全身の細胞が、ゆっくりと目を覚ましていく。
1セット目は、ミストサウナから。
室内に漂う蒸気が全身を包み込み、温度はそれほど高くないが、陶板(とうばん)の輻射熱が身体の奥へとじわりと浸透していく。貸切の空間で、蒸気に包まれながら目を閉じた。しっかり汗をかいたところで水風呂へ。内湯の水風呂は地下水を使用しており、水温16℃。武雄の地下水には、ほんのりと温泉に似た香りがある。まろやかで、どこか品のある冷たさだ。水風呂を出て、内湯のチェアに腰掛け、武雄の森を眺める。この場には、自分一人だけの空間が広がっている。
2セット目は、トンバイサウナへ向かった。
扉を開けた刹那、思わず「おお」と声が漏れた。壁一面を覆うのは、黒牟田焼(くろむたやき)の登り窯(のぼりがま)で実際に使用されていた耐火(たいか)レンガ「トンバイ」だ。黒牟田焼とは、武雄市に430年の歴史を誇る焼き物文化であり、「トンバイ」はその窯の中で陶磁器(とうじき)を焼成する際に使われた耐火レンガのことを指す。同じく窯の中で焼き物を支えていた「棚板(たないた)」も壁材に使われており、この棚板は高い蓄熱性と輻射熱を持つ。一枚一枚表情の異なるレンガが、光を受けて静かに輝いている。これはもはや、サウナ室であり、美術作品であり、武雄の歴史空間でもある。
自動ロウリュが作動すると、蒸気が均等に広がり、トンバイと棚板が蓄えた輻射熱が身体を包んでくる。刺さる熱ではなく、包まれる熱だ。ベンチは背もたれに角度がつけられており、リクライニングチェアのように深くもたれかかることができる。そのサウナ室にいる自分に、思わず酔いしれる。3セットを通して、トンバイサウナに入るたびに、その美しさに心を持っていかれた。
露天の水風呂は、水温10℃前後、水深は最大150cm。階段を一段一段降りていくにつれ、地下水の冷気が身体を下から覆っていく。この地下水もまた、若干温泉のような香りが漂い、水質は驚くほど柔らかい。肌の爽快感が全身を駆け巡る。朝から、これほどの極上を味わっていいものか。
水風呂を出て、10脚以上並ぶリクライニングチェアのひとつに深く身を預けた。どこかで鳥が鳴き、温泉の湯口から水が落ちる音がする。それ以外には何もない。自分の呼吸と心臓の音だけが、確かにここに存在している。
3セット目もトンバイサウナへ戻った。美しい室内に、今度も思わずうっとりする。自動ロウリュが始まると蒸気が立ち込め、トンバイレンガの輻射熱が身体を深く温めていく。深くもたれたまま、目を閉じた。そして再び水風呂に入り、朝サウナを終えた。

大浴場に隣接するラウンジ

大浴場に隣接するラウンジ

ホテルの入り口
鎮まっていく、というのが正確な感覚だと思う。日常の雑念も、旅の疲れも、明日以降のことも、熱の中でどこか遠くへと流れていく。サウナとは思考を止める装置でもあり、思考を鮮明にする装置でもあるのだ。
朝サウナを終えた後、宿泊先のホテルに戻り、朝食をゆっくりと食べた。福岡・佐賀サウナ旅は、まだ終わっていない。これから福岡に戻り、もう一つ、全国から注目を集める施設が小生を待っている。筑紫野市(ちくしのし)にある「天拝の郷(てんぱいのさと)」だ。旅の終わりに、また新しい旅が始まる。サウナ好きの人生とは、そういうものなのだ。

